2013年12月24日火曜日

レビュー|小堀令子展―The Net―

展覧会名|小堀令子展―The Net
会期|2011714日(木)~20日(水)
会場|ギャラリー絵夢


執筆者|宮田 徹也


fig.1 小堀令子展 展示風景

小堀令子は1970年武蔵野美術大学を卒業し、1995年から毎年お茶の水画廊で個展を開催、1998、1999年には从展に参加、近年は立軌展に参加しながら個展を開催している。小山田二郎、瀬木慎一らの所謂近代美術の思いを深く受け止め、探求している稀有な作家である。政治的意識も深く、ノーウォー美術家の集い横浜にも参加、世の中の動向に対して美術が果たすべき役割を担っている。

fig.2 小堀令子展 展示風景
震災以後、影響のある/ない美術家に二分された感がある。小堀は影響がありながらも筆を留めず、製作を続けて個展を開催した。小堀はこの展覧会に30点の作品を出品した。サイズは0号から130号まで、油彩、水彩、ペン、ガッシュを用い、自らが探求する「ネット」の世界を描き切った。小堀はネット以外にも人物、風景の具象も得意とするが、この会は見送ったようだ。それは震災に対して具体的なことが描けなかったのではないだろう。それほどまでに、ネットを描く画面は迫力に満ちていた。

fig.3 小堀令子展 展示風景

会場に入ってまず驚いたことは、これほどまでに多彩な技法で、様々なイメージを実現していることであった。私は小堀の作品は小品が並んでいる展覧会、若しくは大型の作品を1点のみ展示している立軌展でしか触れ合ったことがなかったので、ギャラリー絵夢の広いスペースを余裕で埋め尽くしていることに驚嘆したのであった。油彩なら油彩、墨なら墨のテクニックを駆使して、相当にレヴェルの高い作品が並んでいる。

fig.4 小堀令子展 展示風景
小堀は震災に対して恐れを感じたと話したが、細部の細部まで綿密に描き込み続ける小堀の気迫に私は怯む。ここには様々な想像力、創造性、失われていく情景が練り込まれている。手前にある網の目状の世界の奥には、複雑な個人と全体の世界の関係性が隠されているのだ。それは丁度日常を暮らす意識の壁を突破して無常な無意識の世界に到達するように、抽象と具象の定義が崩壊し、我々が生きている意味と意義が画面の奥から問いかけられてくる。

fig.5 小堀令子展 展示風景
作品の展示方法も、まるで十字架か父と子と精霊、若しくは釈迦三尊、竜虎図と観音像のような配置に思えてくる。この空間には祈りすらも内在化されている。その祈りに救いがあるかないかは問題ではない。祈ること、その行為自体が大切なのだ。何を祈るのかを問う必要もない。本当の実力者は自分一人で生きていて、周りを顧みることが出来ないことなどしない。小堀の作品にあるような祈りから、芸術は人間の本質を豊かにしていくのである。

小堀はこの後も、旺盛に活動を続けている。20139月には横浜ギャルリーパリで、12月には新宿・ギャラリー絵夢で連続個展を開催する。横浜はモノクロームの世界観であり、新宿では色彩豊かな作品を展示する予定であると小堀は言う。地道に「絵を描く」という仕事は、容易に見えて簡単なことではない。それでなくとも海外の動向や国内でも派手な展示が注目されてしまうが、小堀のような真の実力者を追い続けていきたい。

1 件のコメント:

ギャラリー絵夢 さんのコメント...

小堀先生は12月の個展に向けての制作にかかるところで、利き腕を骨折されてしまいました。
したがいまして展覧会は2014年4/24(木)~4/30(水)に延期いたしました。
どうぞよろしくお願いいたします。