2013年8月2日金曜日

レビュー|藤井建男個展

展覧会名|藤井建男個展
会期|2011 321日(月)~27日(日) 
会場|画廊楽


執筆者|宮田 徹也

fig.1 藤井建男展展示風景

藤井建男は1943年、東京生まれ。高校時代に行動美術協会に出品して新人賞を獲得。制作に集中するために夜学へ通い、63年に横浜の古い倉庫を厚意で無償で借り、清水晃の「ピクニック」シリーズのゴルフバッグのオブジェを預かっていた。その頃、村松画廊で廃物のオブジェ、内科画廊では銭湯の絵をもじった看板絵で個展を開催する。デッサン、クロッキーといった写実を得意としながらも、高校生時から「現代美術」の手法で制作していた。板金工、新聞記者をしながら、工場、鉄道、線路などを主題に絵画を作成。70年代の美術の動向に対し疑問を感じ、28年間現場から離れた形となるが、1990年の湾岸戦争を機運として復帰、ヒロシマ・ナガサキ・アウシュヴィッツを動機とした作品を再び個展で発表するようになる。ジャガイモ、シャワーからヒントを見出した作品を制作する。2003年のイラク戦争を機に「ノーウォー美術家の集い横浜」を結成、今日に至る。最近は核兵器廃絶をシンボルとするアトム、人間に利用されるゴジラとキングコング、原発、情報源が切り捨てられる象徴である地上波のテレビの消滅、仕事場でもあったバックヤード、母親の介護という現実をモチーフに、ドキュメンタリーとして成立させる手法の確立に挑戦している。
会場には湾岸戦争以後の作品群、凡そ20点が展示された。個々の作品が持つ社会的主題は重く苦しいものであるはずなのだが、不思議と暗い世界観が形成されない。同時に、時間軸でまとめられているのではあるのだが、ニュースを振り返るような回顧が発生しない。それは見る側の感覚が麻痺しているのではなく、ここに描かれている「問題」の総てが未解決であることも示している。

fig.2 藤井建男展展示風景

fig.3 藤井建男展展示風景

その手法はシュルレアリスムの風刺が欠かさぬ要因となっているのではあるのだが、消費社会におけるポップ・アートが持つ冷笑を引き継いでいるとも言うことが出来る。また、紙や木枠を張らないキャンバスなどの素材にも、現代美術の方法論が深く刻まれていることも忘れてはならない。「綺麗/可愛い」を皮肉り、格差、貧困、底辺の労働など、目に見えない形や姿を克明に残そうとする。藤井ほど「気骨」のある美術者は稀であろう。あらゆる困難に立ち向かい、心が折れることの無い意思の強さは、若手のみならずあらゆるアーティストに学んで欲しい。

fig.4 藤井建男展展示風景

fig.5 藤井建男展展示風景

藤井はこの展覧会に併せて、絵画を描き始めた高校時代から今日至るまでの道程をインタビューと作品で示すDVDも作成した(『藤井建男 絵画断章』作品・藤井建男©1960-2011、映像・電視星組(ウスイジュンコ+ノブキソウイチロウ)©2009-2011、制作著作・のんき堂株式会社 289-2109 千葉県匝瑳市飯塚1116-2)。藤井は過去を振り返るのではない。これからの画業のために、これまでの自己を総括したのだった。藤井が持つ手法にこそ、現代美術の本質と未来が隠されている。我等を取り巻いている資本主義と権威主義という未曾有なファシズムに、闘争という手法を用いることは、現代美術の掟であることを思い起こさせてくれることでもあるのだ。