2011年4月5日火曜日

レビュー|翁譲彫刻展「水のみる夢」

展覧会名|翁譲彫刻展「水のみる夢」
会期|2010年4月27日(火)~5月4日(火)
会場|埼玉県北葛飾郡杉戸町生涯学習センター

執筆者|宮田 徹也


Fig.1 翁譲彫刻展「水のみる夢」展示風景 撮影:宮田絢子

翁の地元での展覧会である。翁は自らが住む町の「水」の問題をこの展示のテーマとした。倉松川の氾濫の問題、それに付随する水害といった限定された主題を扱うのではなく、川が氾濫する時には雨が降る、雨を問題にすると晴れている日もある、晴れていると樹木が光合成を行うといった、幅広い主題が隠されている。そのため天井から滴り落ちる水を受け止めるイメージで、木製の盥を用意した。来客者に「この建物は雨漏りをするのかね?」とまで聞かれたと翁は笑って教えてくれた。それでもテーマは「水」である。美術作品を展示するのに不利である公民館を使用したのは、地元住民に対する翁のメッセージが隠されている。翁は地元で数々の展覧会を行い、住民との交流を深めている。それが町興しに繋がるのではなく、人と人とが繋がることに主眼が置かれていることに注目したい。

翁は様々な時期の作品を、約20点出品した。出品目録もキャプションも作成せず、一般の人に作品と直に向き合って貰う事が前提となっているのだ。そしてまた作品全体で「水のみる夢」という一つの作品にする意図も隠されている。会場には長く白い布が対角線に敷かれ、これだけで公民館を美術展示場に異化する効果が発揮されている。個々の作品は主に木彫と鉄が組み合わされている。それはまるで木の中に予め彫刻が眠っていたのではないかという錯覚さえ与えてくれる。土台に置かれた作品は少なく、翁は彫刻が抱える近代的な問題から解放されていることを示している。屈強な鉄ですらも、木のように容易く加工しているように見える。翁が素材に対して強引な手業を用いるのではなく、自然物と対話するように制作している姿が伺える。このような素材の扱いによって、作品が「人体」ではなく「人間」に見えてくるのだから不思議だ。



Fig.2 翁譲彫刻展「水のみる夢」展示風景 撮影:宮田絢子


Fig.3 翁譲彫刻展「水のみる夢」展示風景 撮影:宮田絢子


Fig.4 翁譲彫刻展「水のみる夢」展示風景 撮影:宮田絢子


Fig.5 翁譲彫刻展「水のみる夢」展示風景 撮影:宮田絢子

作品群の特徴はそれだけではない。今回のテーマにより翁の作品がより自然物であり、自然と呼応していることに気が付くのである。水がなければ木は育まれない。飛んでしまった水分が鉄に宿っていた時期を思い起こさせる。そのような当たり前の姿を再認識させてくれるのだ。

勿論、翁の作品は美術館でも画廊でも空間演出の場でもこのような主張を発揮するだろう。また異なる場所での翁の展示が待ち遠しくなった。



翁譲(おきな ゆずる)公式サイト 

1947 彫刻家翁朝盛の二男として、宮城県仙台市に生まれる
1971 多摩美術大学彫刻科卒業
1988 宮城県芸術選奨受賞(1987年度)

個展
1973 にれの木画廊 (東京)
1975 村松画廊 (東京)
1980 村松画廊 (東京)
1982 鎌倉画廊 (東京)
1983 ギャラリー絵美詩 (岐阜)
1985 ビデオパフォーマンス サウンドファクトリー (東京)
    村松画廊 (東京)
1987 ビデオギャラリー 宮城県美術館
    ギャラリーQ (東京)
    宮城県美術館県民ギャラリー
1990 「デモンストレーション『木をきく』」宮城県美術館
2000 「木をきく-静かにそして静かに」CHIMENKANOYA (東京)
2001 「木をきく-静かにそして静かに」かん芸館 (東京)
2003 「翁譲1971-2003 心にふれたいと思うことは」
    ギャラリーブリキ星 (東京)
2006 「心にふれたいと思うことは-22時25分」ちめんかのや (東京)
2009 「分岐点」同時企画、翁 譲 - 〈1週間シャッターをあける〉
    (埼玉県 杉戸町、宮代町)
2010 「水のみる夢」カルスタすぎとオープンギャラリー(埼玉県)

主なグループ展・公募
1964 「第1回宮城県芸術祭 選抜美術展覧会彫塑・工芸展」丸光
    (仙台/以降毎年出品、'73年芸術祭賞など)
1971 「第2回現代国際彫刻展」箱根彫刻の森美術館
1972 「6人展」村松画廊 (東京)
1974 「2人展」紀伊国屋画廊 (東京)
1975 「6人展」神奈川県民ギャラリー
1976 「第12回現代日本美術展」東京都美術館、京都市美術館
1982 「第14回日本国際美術展」東京都美術館、京都市美術館
1983 「現代のリアリズム展」埼玉県立近代美術館
1984 「彫刻3人展」宮城県美術館県民ギャラリー
1986 「世田谷美術館所蔵作品展」世田谷美術館
1989 「世田谷美術展'88」世田谷美術館
    「美術の国の人形たち」宮城県美術館
1992 「みちのくの造形Ⅱ-人のかたち」宮城県美術館
1993 「開館記念展」相生森林美術館(相生町/徳島)
1999 「みやぎ秀作美術展1999」せんだいメディアテークほか
     (以降2001年、'04年、'07年選出)
2007 「アートみやぎ2007」宮城県美術館
2008 「もうひとつのページェント展vol.1」ギャラリーsenbi(仙台)
2009 「6人展ふたたび-since1975-」画廊るたん(東京)
2009 「分岐点」栗橋町いきいき活動センターしずか館(埼玉県)
2009 「もうひとつのページェント展vol.2」ギャラリーsenbi(仙台)
2009 「鹿首」に参加。詩、歌、句、美の総合誌
    10月創刊準備0号発行
2010  竹のアート2010(埼玉県宮代町)
2010 「もうひとつのページェント展vol.3」ギャラリーsenbi(仙台)

空間演出
1975 第14回現代舞踊協会新鋭中堅公演 <現代舞踊>
    「野坂公夫『砂丘』」(虎ノ門ホール/東京)
1977 第16回現代舞踊協会新鋭中堅公演 <現代舞踊>
    「野坂公夫『丘の枯れ木を見ていただけよ』」
    (虎ノ門ホール/東京)
1982 加藤みや子ダンススペース25周年記念公演 <現代舞踊>
    「加藤みや子『白い壁の家』」(調布グリーンホール/東京)
1989 現代舞踊協会新鋭中堅公演 <現代舞踊>
    「秋谷ひとみ『花鎮め』」(虎ノ門ホール/東京)
1992 加藤みや子ダンススペース公演 <現代舞踊>
    「加藤みや子『白い壁の家』全編初演」(青山円形劇場/東京)
1993 加藤みや子ダンススペース公演 <現代舞踊>
    「加藤みや子『白い壁の家』改定再演」(草月ホール/東京)
1994 FREE PACKAGE vol.4 <現代舞踊>
    「北野啓子『皮膚下のうす笑い』」(俳優座/東京)
1995 加藤みや子ダンススペース公演 <現代舞踊>
    「加藤みや子『イエルマ』」(スペース・ゼロ/東京)
1996 加藤みや子ダンススペース公演 <現代舞踊>
    「加藤みや子『イエルマ vol.2』」(青山円形劇場/東京)
1996 ルナの会プロデュース公演Ⅱ <演劇>
    「ルナの会『Chieko』 『バーサよりよろしく』」
    (CHIMENKANOYA/東京)
1998 HOT HEAD WORKS 1998 <コラボレーション>
    「翁譲・深谷正子・田口敏子 『7月27日砧公園晴れ』」
    (アネックス仙川ファクトリー/東京)
1999 ジァンジァン企画公演 
    「宮下恵美子・アベレイ 音響詩『少年は石を拾った』」
    (渋谷ジァンジァン/東京)
2003 tatopani 内野敦子 FASHION SHOW
    『あたたかい水』(そば処 ゆう/東京)
2006 第1回 ACKid 2006 <コラボレーション>
    「翁 譲・斉藤直子・田口敏子」
    (キッド・アイラック・アート・ホール/東京)
2006 畦地's ダンスパフォーマンス <コラボレーション>
    畦地 真奈加・畦地 亜耶加
    (ちめんかのや/東京)
2007 アートみやぎ2007
    〈アーティスト・トーク+ダンス・パフォーマンス〉
    翁譲(彫刻)・遠藤 豊(ダンス)・熊地勇太(音楽)
    (宮城県美術館)
2008 第3回 ACKid 2008 <コラボレーション>
    「翁 譲・遠藤 豊・熊地勇太」
    (キッド・アイラック・アート・ホール/東京)
2009 「分岐点」翁 譲-〈1週間シャッターをあける〉同時企画
    「きよじ屋書店朗読会」
    翁 譲 (彫刻)・佐藤 昇 (朗読)
     (きよじ屋書店 / 埼玉県杉戸町)
2010「七夕朗読会」(弥生湯 / 埼玉県杉戸町)
2010 竹のアート2010「鎮守の森朗読コンサート」(埼玉県宮代町)

パブリック・コレクション
宮城県美術館  ビデオ作品 《WALK》
世田谷美術館  彫刻作品 《羽化羽化》 ビデオ作品 《WALK》
相生美術館  彫刻作品 《木をきく-Ⅰ》
せんだいメディアテーク  ビデオ作品 《WALK》

0 件のコメント: