2010年11月21日日曜日

レビュー|「『その他』のチカラ。 -森村泰昌の小宇宙-」

展覧会名|「『その他』のチカラ。 -森村泰昌の小宇宙-」
会期|2010年11月20日(土)〜2011年3月13日(日)
会場|兵庫県立美術館

執筆者|樋口 ヒロユキ

★常設展なのに回顧展みたい!
兵庫県立美術館で開催されている、森村泰昌さんの展覧会「『その他』のチカラ」に行ってきました。

この展覧会は森村さんの個展ではありますが、すべてを同館で所蔵しているコレクション品で構成した、いわば常設展の一部。展示されているのは80点、ちょっとした特別展並みのボリュームがあって、是非ともご覧頂きたい展覧会になっています。


Fig.1 「『その他』のチカラ」展示作業風景

この展覧会は奈良県在住のコレクター、Oさんから寄贈された森村作品72点を中心としたものですが、Oさんのコレクションの何がスゴいかというと、森村さんのごく初期のものから、代表作を一通り網羅してるんですね。

たとえばギャラリー16(京都)で開催された、もっとも初期の伝説的なグループ展「ラデカルな意思のスマイル」の出品作なんかが、今回のコレクションには収まっている。これは森村さんが初めて絵画に化けた、とても貴重な初期作品。森村さんの原点なんです。

もちろんあの有名な「名画シリーズ」や、マイケル・ジャクソンやマドンナに扮した「サイコボーグシリーズ」、さらにはビビアン・リーをはじめとする映画女優に扮した「女優シリーズ」など、節目節目の代表作が、きちんと揃っているんですね。あくまで館蔵品だけなのに、ちょっとした回顧展を見ているようなんです。


Fig.2 「名画シリーズ」展示風景


Fig.3 「サイコボーグシリーズ」展示風景


Fig.4 「女優シリーズ」展示風景

★ふだんは見られない珍品の数々!
これだけでも見る値打ちは充分にあるわけですが、もう一つ面白いのは、Oさんというマニアックなコレクターであればこそ集められた、珍品の数々です。たとえば下のポートフォリオなどは、逆にこれまで美術館などでは、なかなか目にできなかったものです。


Fig.5 《ポートフォリオ「足」ASHI》(1995)

これがポートフォリオって、どういうこと? と思われるでしょう。新人作家にとってポートフォリオと言えば、自作のプレゼンをするための簡単なファイルで、市販のクリアファイルなんかにカラーコピーを挟んで作ったりします。

これが人気作家になると、このポートフォリオ自体に値段がついて、立派なコレクター向け商品になる。で、革張りのファイルやボックスなんかで、部数限定のポートフォリオを作るわけですね。森村さんのこの作品も、基本的にはそうしたコレクター向けアイテムとして作られたものなんです。

ところが、そこは凝り性の森村さんのこと、フツーのポートフォリオでは満足しない。カセットテープやらオルゴールやら、盛りだくさんのオマケを付けて、ついでに立体作品まで同梱して、豪華ボックスセットにしてしまったわけです。

もう一つだけ、珍品を紹介しましょう。森村さんの「書」の作品です。


Fig.6 《温新知故》(1995)

これ、妙な字でしょう? 実は森村さんが「作った」字なんです。こんな漢字、世界のどこを探してもありません。読みは「おんしんちこ」、つまり「温新知故」。温故知新をもじってオリジナルの漢字を作って、それを掛け軸にしたんですね。

★館蔵品だからこそ面白い!
このほかにも本展では、貼り混ぜ屏風あり焼き物あり、ビデオありオブジェありと、いわば一種の「裏モリムラ」的世界が広がりますが、正史から逸脱した裏面史であればこそ、森村さんの個性がかえってよく見える。こうした展示ができたのも、Oさんというコレクター、そしてそのコレクションを一括収蔵した、兵庫県立の大英断があればこそです。

常設展示って地味ですが、実はその館が「自前で持とう!」と決断して入れた作品で構成するもので、そのぶん美術館の底力が出るものなんですね。だいいち見てください、本展担当の江上ゆか学芸員が、汗びっしょりで設営するこの姿! これは見に行かなきゃ!


Fig.7 「『その他』のチカラ」展示作業風景

ちなみに兵庫県立では年間3回のコレクション展をやっていて、本展はその3期目のうちの一部分をなす「小企画」。同時開催は「描かれた人々-女と男」と題した館蔵品点なのですが、こちらも面白い展示です。たくさん面白い作品が出てるのですが、私が好きな作品を独断と偏見で、一点だけご紹介しておきましょう。


Fig.8 本多錦吉郎《羽衣天女》(1890)展示風景

上は明治の頃に描かれた「歴史画」というジャンルの作品で、私はこういう歴史画ってすごく好きなんですよね。歴史画は比較的短い期間で廃れて忘れられた、始祖鳥みたいなジャンルの絵画なんですが、和洋折衷の独特な面白さがあるんです。

ちなみに大阪市中央公会堂には、松岡壽という画家の描いた《天地開闢》という天井画があって、これも大正期の歴史画なんですが、この絵は森村さんの新作の中に、借景として取り込まれてるんですね。この新作は2010年1月に同館で始まる展覧会「森村泰昌 何ものかへのレクイエム -戦場の頂上の芸術」でも展示されるので、是非比べてご覧になってください。同じ歴史画つながりで平仄をあわせた、心憎い展示だと思います。