会期|2010年4月7日(水)-19日(月)
会場|麻布十番ギャラリー
執筆者|宮田 徹也
1980年代から活躍し、国内外で多くの実績を誇る内倉ひとみが個展を開催した。出品した作品タイトル別に《Lumière》(紙、エンボス、切り抜き、クリアコーティング)が14点、《Émerveillé》(紙、プリント、切り抜き,アクリルミラー)が4点、《輝く細胞》(凹レンズ、FRP、革、鏡)が3点、合計21点である。《Lumière》は2010年制作の各114x200cmの四枚組1点と 35x35cmが4点、2009年制作の各114x200cmの3枚組が1点と68x90cmが1点、52.5x90cmが2点、30x52cmが2点、34x25cmが3点である。《Émerveillé》と《輝く細胞》は総て2010年制作である。前者は皆27x20cmのシートサイズと同じサイズで展開しているが、後者は14x15x16cm、15x15x14cm、20x22x20.5cmとサイズがそれぞれ異なる。
同一のタイトル作品が並ぶことが示すとおり、内倉はインスタレーション的展示を目論んでいると言える。天井の高い麻布十番ギャラリーは、《Lumière》で満たされていた。入り口向かって右の壁面は新作の四枚組が天井から吊るされ、左の壁面の横に伸びる柱の上部には2009年の三枚組が並んでいる。下部には《Émerveillé》が床置きされている。空間を充実させた展示方法と言える。一階事務所前、階段壁面、二階展示室にも作品が散りばめられている。どこに身を置いても眩い白が眼に飛び込んでくる。白というよりも切り抜かれている為か、透過する作品にも見える。透明であるにも関わらず、有機的な印象を受けるのは素材が紙=植物=生き物という、我々に近い存在を最小限の手順で作品と化したせいなのか。私が訪れたのは昼間であったため、外光が画廊一杯に差込み、《輝く細胞》がその光を反射していた。夜に訪れたのであれば、四枚組、三枚組の作品の足元に設置されている蛍光灯が光を放ち、また違った表情を浮かべたのであろう。
《Lumière》の制作方法は、一枚の紙に掌に収まる様々なサイズの円で浮彫加工し、円の隙間を切り抜いてクリアコーティングを施しているのではないかと憶測することが出来る。新作の《Émerveillé》は、この作品の裏にアクリルミラーをこちらに向けて配置したものだ。それにより、更に輝きを増している。立体の《輝く細胞》は僅かであっても光を乱反射し、内倉によると「加工された光」であり「光の小さな粒が私たちに降り注ぐ、と同時に私たちの体内にも光が宿っているのではなかろうか。」という(内倉ひとみweb http://www.k4.dion.ne.jp/~hitomi_u/index.html)。
《Lumière》、若しくは《Émerveillé》に表れる円を、内倉が《輝く細胞》で語るような「光」と見ることも、泡や雫といった水のイメージ、シャボン玉や雲といった空気のイメージと捉えることも可能であろう。
内倉はこの展覧会に際して、以下のようなコメントを残している(同web)。「作品Lumièreの光と人の体内に潜む光の粒が呼応する。人の光は輝きを取り戻し、活性する。体内の光を呼びおこす=生(=一瞬)が輝く」。
《Lumière》、若しくは《Émerveillé》をぼんやりと見詰めていると、円が盛り上がっていると思い込んでいたところが突如、窪んで見える。窪んでいると思えば盛り上がって見える。この視覚を繰り返していくと、最早盛り上がっているのか窪んでいるのかが認識不可能になる。この視覚の変化もまた、内倉の言う「呼応」なのかも知れない。
内倉のコメントにある「光」を「闇」に置き換えても、この視覚は成立するであろう。ここでいう「闇」とは、モノが生み出す「影」や人間の内面に存在する「翳」という消極的な印象のものではない。光が当たらない場所の「陰」である「闇」を指す。《Lumière》はモノであるから、光が当たり、影が生まれる。これを反転させる意味でもない。内倉はあくまで白い作品を「光」であると譬えている。
闇と体内に潜む闇の粒が呼応し、活性する。このような見解が可能なのは、それだけ内倉の作品が一元的だからだ。内倉の「光」には「闇」を含んでいない。「闇」とすれば「光」を含まないように。一元論的作品であるにも関わらず見る者が窒息しないのは、一元論すらも含んでいない、絶対な存在に成り得るからかもしれない。否、「絶対」という原理すらも超えている、或いは初めから持ち合わせていないのかも知れない。
それでも私が闇にこだわる理由は、この一元論に「匿名性」を感じるからだ。作品の特質、タイトル、展示方法、総てが《Lumière》という名の下にある匿名だ。この匿名性が、近代美術が抱える天才主義に対する答えであると言い切ることが出来ない。内倉が過ごしてきた80年代から現代までの美術の動向には、近代を超克する挑戦が大きく渦巻いていたのである。
そのような動向の中で内倉が現代に何故このような作品を制作し、インスタレーション的な展示方法を選んでいるのか。そのように考えると、内倉の展示方法は「インスタレーション」ではないのかも知れない。「絶対」や「匿名性」を感じるのは、見る此方側の現代的な問題だ。作品と見る者が持つ彼岸と此岸の関係は、常に莫大な時間と思考を要する。この問題に対する思索を怠らないようにすれば、「インスタレーション」とは何か、何だったのかという問題に立ち返り、そこから現代の内倉の作品に向かい合うことも可能になる筈だ。

Fig.1 《瞬く細胞》(凹レンズ・FRP・革・鏡、14x15x16cm、2010) 撮影:内倉ひとみ

Fig.2 内倉ひとみ個展「Lumière」(麻布十番ギャラリー)展示風景 撮影:内倉ひとみ

Fig.3 《Lumière 3枚組》(紙・エンボス・切り抜き・クリアコーティング、各114x200cm、2009)
撮影:内倉ひとみ

Fig.4 《Lumière 4枚組》(紙・エンボス・切り抜き・クリアコーティング、各114x200cm、2010)
撮影:内倉ひとみ

FIg.5 《Émerveillé》(紙・プリント・切り抜き・アクリルミラー、27x20cm[シートサイズ]、2010)
撮影:内倉ひとみ
【内倉ひとみ略歴】(「内倉ひとみweb」より転載)
1956 鹿児島県に生まれる
1980 多摩美術大学絵画科日本画専攻卒業
1982 多摩美術大学大学院芸術研究科修了
現在 栃木県那須町在住
受賞 設置
1985 渋谷丸井本店壁画制作、東京
1988 第1回「サンバースト空間アート大賞展」準大賞、日の丸自動車学校、東京
2000 「Angel Dew-天使のみずのみ」設置、霧島アートの森、鹿児島
2003-2004 文化庁新進芸術家派遣海外研修制度によりフランスに派遣される
2003-2004 シテ・インターナショナル・デ・ザールに滞在
2005 「光の花」設置、エレガーノ神戸、兵庫
2006 シテ・インターナショナル・デ・ザールに滞在
2007 ふじみ野駅前広場モニュメントコンペ準大賞、埼玉
個展
1982 スタジオ4F、東京
1983 ギャラリー・パレルゴン、東京
1984 銀座絵画館、東京
1985 スタジオ4F、東京
1986 鎌倉画廊、東京
1988 真木画廊、東京
お茶の水画廊、東京
鹿児島県文化センター、鹿児島
ギャラリーバー・ハイネケン、東京
社団法人日本外国特派員協会、東京
1989 アトリエ・アリス、神奈川
お茶の水画廊、東京
1990 ファインアート柊木、鹿児島
ゆとりギャラリー、横浜
1991 アートギャラリーK2、東京
ファインアート柊木、鹿児島
1992 ジーン・コンテンポラリー・アートスペース、埼玉
ギャラリー古川、東京
1994 日本画廊、東京
1995 真木田村画廊、東京
4℃、東京
アートスペース・ジーン、埼玉
1996 ギャラリー川野、鹿児島
お茶の水画廊、東京
「真昼の星空」 タケダエキジビットハウス、神奈川
1997 日本画廊、東京
1999 「HIKARI-大切な記憶」アートギャラリー閑々居、東京
「HIKARI-こどもの心にもどって・・・。」香染美術、東京
「HIKARI-湧きあがる記憶」アンテーヌ、神奈川
2001 「輝く細胞」TEPCO銀座館プラスマイナスギャラリー、東京
「湧きあがる記憶」アンテーヌ、神奈川
2003 「光MAMIRE」アートギャラリー閑々居、東京
2004 「Numbers」シテ・インターナショナル・デ・ザール、パリ、フランス
2005 「内倉ひとみのアトリエ」アートギャラリー閑々居、東京
2006 「光の未発に」アートギャラリー閑々居、東京
「Lumiére」スペース・ベルタンポアレ、パリ、フランス
「Lumiére」ギャラリー・ブレーマー、ベルリン、ドイツ
「光のチャペル」ムゼカラカラ、神奈川
2008 「幻の影」マキイマサルファインアーツ、東京
2009 「踊る光」 Exhibit Live & Moris gallery、東京
「光・みつめる」 プラザギャラリー、東京
グループ展
1981 「表現の多様性展Ⅱ」、多摩美術大学大学院、東京
1982 4人展(久保裕、タナカケンジ、渡辺薫と)、Studio4F、東京
1983 「饗宴・第2回-巨大な絵画による」名古屋市博物館、愛知
1984 2人展(奥野穂と)、銀座美術倶楽部、東京
「身辺からの飛翔-芸術おもちゃ+図工少女+地球上の光景」名古屋造形芸術短期大学Dギャラリー、愛知
第1回「Tama Vivant '84 戯れなる表面」多摩美術大学八王子キャンパス、 東京
第1回「Tama Vivant '84 戯れなる表面」西武百貨店八王子店7階特設会場、東京
1985 3人展(海老塚耕一、戸谷成雄と)、Soo Gallery、大邸、韓国
第5回「ハラアニュアル」原美術館、東京
「身辺からの飛翔-芸術おもちゃ+図工少女+地球上の光景」NEWS、東京
「さまざまな眼」4(菅野由美子、吉澤美香と)、かわさきIBM市民文化ギャラリー、神奈川
1986 「明日への造形-九州 第6回色彩の豊饒」福岡市美術館、福岡
「正しい発音」NEWS、東京
1987 8人による小品展、スペース遊、東京
8人による連続2人展、スペース遊、東京
1988 「Spiral Take Art Collection 1988」スパイラルガーデン、東京
山口の現代美術Ⅴ「ニュー・ジャパニーズ・スタイル・ペインティング」山口県立美術館
Artist Works、ルナミ画廊、東京
1989 「アートエキスポ・ニューヨーク」ジェイコブ・ジャヴィッツ・コンベンションセンター、ニューヨーク、アメリカ
「Reflection Part 3-階段展」新宿文化センター、東京
Japanese Contemporary Art in 80's「90年代へのプロローグ」ハイネケンヴィレッジ、東京
第1回「風の芸術展」南溟館、鹿児島
「現代のヒミコたち-新しい造形を求めて」イムズ、福岡
「16人の女性アーティストによる新・造形展」ニッケ・コルトンプラザ、千葉
「Spiral Take Art Collection 1989」スパイラルガーデン、東京
1990 「A Little Presence Ⅰ」アトリエMIU、神奈川
「MM21ストリート・ギャラリー」みなとみらい21地区、神奈川
1991 「神奈川アートアニュアル'91」神奈川県民ホールギャラリー
1992 「A Little PresenceⅡ-立ちあがるかたち」お茶の水画廊、東京
「九州現代彫刻展'92in みぞべ」鹿児島空港及びその周辺
「Heart E アートTシャツ展」ダズゲニー・デザインオフィス、東京
1993 「アートライブ'93」鹿児島市立美術館
1994 「アートライブ'94」鹿児島市立美術館
「最も気持ちよい”色”と”形”のためのフレーム展-making Folklore」スペース・リンク、東京
1995 「アートライブ'95」鹿児島市立美術館
「ハーモニーウィーク-女性たちのアートスペース」旧鹿児島地方気象台
第4回「風の芸術展-まくらざきビエンナーレ」南溟館、鹿児島
第16回「インパクトアートフェスティバル'95、京都市美術館、京都
1996 「アートライブ'96」鹿児島市立美術館
1997 「早春の会」アートギャラリー閑々居、東京
「メッセージ'97」都城市立美術館、宮崎
2000 第1回「ボックス美術館ストリート展」SK画廊他、杉並区界隈、東京
「メビウスの卵展2000」千曲川ハイウェイミュージアム他、長野
2001 「Reflection 13-とうきょう21展」ギャラリー・サカ、東京
「Buzz Club - News from Japan」P.S.1 コンテンポラリー・アートセンター、ニューヨーク、アメリカ
「メビウスの卵展」O美術館、東京、他
「Box美術館ストリート展」杉並区役所他、杉並区界隈、東京
「箱イリ美術」刈谷市美術館、愛知
「アート!新スタイル-かごしまの作家-かかわりの世界観」鹿児島市立美術館
2003 「メビウスの卵展」せんだいメディアテーク、宮城
2004 グループ展、シテ・インターナショナル・デ・ザール、パリ、フランス
「造形作家たちの週末」パリ4区役所、パリ、フランス
2005 多摩美術大学校友会「小品展2005」文房堂ギャラリー、東京
2006 多摩美術大学校友会「小品展2006」文房堂ギャラリー、東京
2007 多摩美術大学校友会「小品展2007」文房堂ギャラリー、東京
2008 「Tama Vivant Ⅱ-イメージの種子」 多摩美術大学八王子キャンパス、東京
「Tama Vivant Ⅱ-イメージの種子」みなとみらい駅地下3階コンコース、神奈川
アート農園「表層の冒険者たち2008 パート1」ギャラリーいしだ、東京
觀海庵落成記念コレクション展「まなざしはときをこえて」ハラミュージアムアーク、群馬
2009 アート農園「表層の冒険者たち2008」エキジビット・ライブ・アンド・モリス画廊、東京
「THE LIBRARY」 静岡アートギャラリー、静岡
コンサート・インスタレーション
2007 IIDA音楽と美術シリーズ-サロンコンサート、ハシモトハウス、茨城
2008 「より深く より心豊かに」浴風園多目的コミュニティホール、東京 (創る:内倉ひとみ、歌う:渡辺早織、語る:金山秋男)
「イザナギあるいはオルフォイス-動きと空間のためのパフォーマンス」 早稲田大学小野記念講堂、東京(レクチャー:クリスチーネ・イヴァノヴィッチ、作曲・打楽器:久保摩耶子、 ハープ:平野花子、舞:中川真澄、インスタレーション:内倉ひとみ)
2009 「イザナギあるいはオルフォイス-音を見る・絵を聞く-久保摩耶子の音楽をとおして」クルトゥワハウス ミッテ、ベルリン、ドイツ (作曲・打楽器:久保摩耶子 ハープ:カタリナ ハンステッド ダンス:カセキ ユウコ インスタレーション:内倉ひとみ)
ワークショップ
1985 「素材との出会い展-紙と造形」Part1、こどもの城造形スタジオ、東京
2005 「ペヌエル?光の探検隊」烏山聖マリア幼稚園、栃木
2006 「みんなあつまれ!県美の夏祭り お化け屋敷」栃木県立美術館
第15回「わたしの企画、応援します!」アートワンダーランド、カスミつくばセンター、茨城
パブリックコレクション
都城市立美術館
霧島アートの森
原美術館
ワコールアートセンター
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